2016年5月7日土曜日

Bさん勾留理由開示公判 傍聴報告です  2016.4.25(月) 

 
 4月25日、月曜日。快晴。Bさんの勾留理由開示公判がひらかれたこの日、平日にもかかわらず多くの方が傍聴に足を運んでくださいました。東京地裁前に12時結集で、公判に臨むBさん応援、JSCオリンピック仮処分を決定した東京地裁民事部と、Bさん勾留を決定した刑事部への抗議アピール・ビラまき情宣!


※この日「オリンピックによる野宿者追い出しを許さない!一日連続行動」の全貌は、国立競技場周辺で暮らす野宿生活者を応援する有志ブログにて報告予定⇒ 応援する有志リンク


 Aさんの時と同様、またしても430号法廷、たった20席しかない警備法廷のため、救援会では傍聴券の抽選にそなえ13時結集を呼びかけておりました。が、なんと、当日、抽選は13時〆切になったことが判明、、、抽選にまにあわなかった方もおられたことと思います。すみません、、、この場を借りてお詫び申し上げます。
 さらに、今回も明治公園住人や救援会メンバーのために傍聴券をゆずっていただきました。感謝です!

 13時半、勾留理由開示公判、開廷。すでに入廷していたBさん、みんなの顔を見るなりニコニコ、キョロキョロ、うれしそう(「Aと同じだな」との声)。公判直前に保護房に丸一日叩き込まれるというとんでもないことが起こったため、みな心配していましたが、そうした杞憂を吹き飛ばすBさんの明るい表情に、傍聴に入ったみんなもニコニコ。Bさんの後ろには、このかんのJSCによる仮処分攻撃に、ともにガッチリたたかってくれた山本弁護士、戸舘弁護士が控えています。

 担当裁判官は、Aさんの時と比べれば穏やかな印象の人物ではありますが、なるべくさっさと先に進めて終わらせようという姿勢はまるで同じ、というかそれ以上。
 それもそのはず、戸舘弁護士より、「裁判官、あなたは勾留決定をした吉戒純一裁判官ではないですね」・・・・ え、違う人なの? 「発付した吉戒裁判官による開示を求めます」。これにたいしトミタ裁判官、「私でも開示できます」「釈明の必要はありません」「弁護士のご意見はうかがいました」。では、何でも吉戒裁判官の代わりに答えていただけるのか? 

 弁護士による求釈明。山本弁護士から、強制執行2日後の4月18日にようやく届いた「仮処分決定」、そして21日届いた執行官・嘉原正志作成の「仮処分執行調書」に照らし、また民事執行法に照らして、Bさんにかけられた「強制執行行為妨害」容疑が果たして成立するのかどうか、検察が作成した被疑事実の矛盾点について鋭く問うもの。
 これに対し、トミタ裁判官、「釈明の必要はありません」「弁護士のご意見はうかがいました」「関係者の供述、一件記録に基づき判断いたしました」「証拠の存否に関わるのでお答えできません」、、、同じ台詞の繰り返し、、、自動販売機ですか? 

 さすがに途中で戸舘弁護士、「裁判官、まったく理由が開示されておりません。吉戒純一裁判官による開示を求めます」と強く要求。

 山本弁護士による求釈明は、4/16の仮処分強制執行がいかに異例であったかという点について触れ、東京地裁民事9部による決定そのものへの疑義をも提示するものでした。
 「執行の前日に仮処分決定が下され、債務者とされた人たちも、債務者ら代理人も、その決定の内容すら知らない状態で、本件明渡しの断行の仮処分が行われた。このように秘密裏に進行することができる保全処分を「強制執行」に含めることはできないという見解もある(松宮孝明『刑法各論講義(第3版)』448頁)。裁判官は、債務名義の損会いが確定されたわけではない保全執行の場合でも、通常の強制処分と同様に刑法96条の3を適用すべきとの立場にたつのか。」(求釈明書より抜粋)

 勾留の妥当性についての質問には、裁判官、ほんの少しだけ回答。弁護士「居所について、18日に家宅捜査を行なっていますよね?」 裁判官「勾留決定した17日の時点では、居所は不明でした」、ん?言い訳?その後すぐ居所が判明しても10日間拘束していいの?酷いです。
 弁護士「罪証隠滅の恐れというが、『強制執行行為妨害』があったとされる現場は複数の執行官、大勢の警察官が目撃しています。これら関係者にどのように罪証隠滅を働きかけるというのですか?」 裁判官「手段、方法にかかわる部分は回答しません」、弁護士「勾留時17日には、すでに執行官による仮処分調書も作成されています。罪証は抽象的にも存在しないのでは?」 裁判官「弁護士の意見はうかがいました」。はあ、そうですか。大事なところなんだけど。。
 弁護士「逃亡のおそれがあると判断した根拠は? 被疑者(Bさん)は、野宿者がその夜にも必要な荷物の引き渡しを求めたのですよ。その方たちを置いて逃亡するとお考えですか?」 裁判官「冒頭に申し上げたとおりです」、弁護士「黙秘、取調べ拒否といった被疑者の供述態度も判断に含まれるのですか?」 裁判官「一要素となります。意見としては分かりました」、、、つまるところ、勾留を認めた主な理由は、供述態度?

 被疑事実を作文した検察官、意見陳述は「ありません」とひとこと。新人らしき2名を引き連れて、言いたいことはそれだけですか。

 対して、お二人の弁護士からの意見陳述は感動的なものでした。

 まずは山本弁護士、「被疑者は無実であり、勾留理由も存在しません」と力強く断言。保護室収容への抗議、そして、この勾留は、取調べ拒否をつらぬく被疑者に供述を強要するための不当な勾留である、すみやかに釈放せよ、と。

 (ここで耐え切れず、「やることが汚ねえよ!」と発した野宿の仲間に対し、裁判官が退廷を命ずる暴挙。ほんと汚ねえよ)

 また、東京地裁がJSCに仮処分を認めた内容は「土地の明け渡し」であり「テント等の撤去」は含まれない、債務者とされた3名、関係者も被疑者逮捕の2時間前には強制的に敷地から執行官により排除されており、「土地の明け渡し」が逮捕時には完了していたことは執行調書にも明らかであること、むしろその後のトラックによる荷物搬出強行こそ、民事執行法に照らして不適法であること、よって本件逮捕そのものが違法であると、逮捕の背景にある強制執行の問題性についてもきっちり指摘しました。検察官がうなずきながら聞き入っているように見えたのは気のせいでしょうか。

 ※山本弁護士の意見陳述の全文はこちら⇒ 2016.4.25(月) 勾留理由開示公判 弁護士による意見陳述  4/16 明治公園仮処分―強制執行の不適法性が示されています。



 そして、戸舘弁護士からは、まずこの勾留理由開示公判が、憲法34条(「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」) が要求する手続をあまりに欠いている、人の自由を奪うという極めて重大な人権侵害を行なうに足る理由もまったく示されない、あまりに不当な裁判であり無効である、と。

 また今回、JSCが私人の立場で野宿者に対し申し立てた仮処分は、民事保全法、都市公園法、憲法25条が保障する生存権、国際人権条約に照らしても非常に問題があり、違憲違法の疑いがある。JSCは一切、疎明すらしていない。よって、4/16の強制執行じたいが違憲違法であり、無効であると力強く示されました。
 ※ご参考 必読! 3/24 JSC仮処分申立に対する審尋 弁護士による答弁書 ⇒ 

 戸舘弁護士は意見陳述の最後に、この公判が異様な警備体制のもとで開かれた上、勾留理由が一切開示されない、示されないことは、まさに裁判官が、あらかじめ野宿者運動に対し偏見・蔑視を持っていたことの表れであり、到底容認できるものではないと、ひときわ強く抗議しました。すっかり目が泳いでいる裁判官。

 思わず拍手喝采しそうになるものの、みなグッとこらえて、我慢我慢。。。なぜなら、このあと、いよいよ、Bさんの意見陳述。退廷をくらったら、強制的に裁判所の敷地外にまで追い出されます。Bさんもそわそわと、我慢に我慢を重ねている様子。出番が来たぞ!

 Bさんの素晴らしすぎる意見陳述は、全文を掲載しておりますので 【 リンク:Bさん意見陳述、ぜひご一読ください。いつもののんびり・ゆっくり・明快な口調で、なぜ自らが野宿・日雇労働者の運動に取り組むのか、明治公園のたたかいがこの資本主義社会においていかに光り輝いているか、およそ10分間に渡り陳述。
 
 堂々たる大演説のラスト、「ともにがんばりましょう。ご清聴ありがとうございました。」とBさんが話し終えるやいなや、もう我慢も限界と傍聴席も立ち上がって拍手! 裁判官が「全員退廷」を命じたようでしたが拍手と激励の声にかき消され、みなBさんと笑顔で手を振り合って、またの再会を確認しました。みな映画館で超大作映画を見て出てきたばかりのような、清々しい顔つきだったと思います。

 そして翌朝4/26、Bさん釈放。まともに勾留理由も述べられない裁判官、検察官もさすがに勾留延長はためらわれたのでしょう。当然の結果です。


* * *


4/25 東京地裁前にて


 今回Bさんにかけられた「強制執行行為妨害罪」(刑法96条の3)は、2011年に新設された比較的新しい罪状です。それまでの強制執行妨害罪(96条、96条の2)が「物」(財産)を対象にしているのに対し、「人」(執行官・債権者など)への妨害を新たに含めたことで、強制執行をより円滑に行う、そのために処罰範囲が拡大されたということになります。
 強制執行、それも仮処分による強制執行は、担保金が必要なので(今回JSCは100万円を担保に入れている)、ある程度の金持ちでなければこのような強制手段に訴えることは不可能です。債務者とされた側が、これを阻止するため法的対抗措置をとることはもちろん考えられますが、貧乏人にとって即座に裁判に訴えるのは相当の覚悟がいる、財力のみならず気力・体力・時間的余裕の点からも、非常に困難です。全財産を強制執行で持っていかれるとなった場合、貧乏であればあるほど、体を張って抵抗するしかない、そうせざるを得ない場合がほとんどなのであり、「強制執行行為妨害」という罪状そのものが、貧者の抵抗を犯罪化することで金持ちを利する、という不公正を含んでいるのではないでしょうか?

刑法


第五章 公務の執行を妨害する罪

(公務執行妨害及び職務強要)  
第九十五条  公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。  

2 公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。  

(封印等破棄)  
第九十六条  公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し、又はその他の方法によりその封印若しくは差押えの表示に係る命令若しくは処分を無効にした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。  

(強制執行妨害目的財産損壊等)  
第九十六条の二  強制執行を妨害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第三号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も、同様とする。  
一 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為  
二 強制執行を受け、又は受けるべき財産について、その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為  
三 金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為  

(強制執行行為妨害等)  
第九十六条の三  偽計又は威力を用いて、立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。  

2 強制執行の申立てをさせず又はその申立てを取り下げさせる目的で、申立権者又はその代理人に対して暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。  

(強制執行関係売却妨害)  
第九十六条の四  偽計又は威力を用いて、強制執行において行われ、又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。  

 
(加重封印等破棄等)  
第九十六条の五  報酬を得、又は得させる目的で、人の債務に関して、第九十六条から前条までの罪を犯した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。